キャリアを考える視点とは?
転職や独立、あるいは社内でのキャリアを考える時に、どんな観点で検討しているだろうか。
僕は知人や友人との間でキャリアの話をしたり、相談される機会は比較的多いのだが、明確な基準を持って選択している人は、意外に少ないように思う。
キャリアに関する本はたくさん出ているし、今どきの学生は、就活段階でたっぷりとキャリアについての教育を受け、自分のプランも作っている。
企業も力を入れている。キャリア研修などは多くの会社が取り入れているし、丁寧な場合は半年~1年ごとに上司が部下の今後のキャリアについてコーチングしたり、人事部が上司抜きで長期のキャリア志向についてヒアリングしているケースもある。最近は団塊世代が定年に差し掛かったこともあり、シニアのセカンドキャリアの話題にも事欠かない。
また、会社員に限らず、独立・起業を志す人は、自分で事業を興していくことと共に、自分のキャリアとも向き合うことになるだろう。
このように、キャリアを考える機会は非常に多く、情報もあふれている。
にも関わらず、自分なりのものさし・基準を持ちきれていない人が多いのは、それだけ難しいテーマであり、決まった答えはないテーマなのだと思う。
多面的に考え、ステップ・バイ・ステップで整理するのも必要だが…
最初の質問に戻ると、よく耳にするキャリアの選択基準・観点は、次のようなものがある。
- 理念に共感でき、仕事のテーマが魅力的かどうか
- 一緒に仕事をしたい人がいるかどうか
- 会社のカルチャーが自分にフィットするかどうか
- 制度・条件面が自分の希望を満たすかどうか
どれも間違いでないし、十分考えるべき観点だと思う。
まず自己理解を深めて志向や価値観やスキルを明確にしてから、就きたい仕事を考える、というステップも必要だろう。
しかし、もっと手っ取り早いやり方もあってよいと思う。
なぜなら、キャリアのような時間軸が長く、重要だが緊急性が低くなりがちなテーマは、定期的に考えたり、日々の中で時間を掛けずに考えておいた方がよいからだ。
気づいたら自分のやりたい事とずれていた、では困る。
従って、王道の理論や詳細なステップ・バイ・ステップの手順は専門書をご覧頂くとして、
ここでは僕が人から相談されたときに、手っ取り早く整理して方向性を見出すために使っている考え方を紹介したい。
とてもシンプルなものだ。
キャリアは、職種・ポジション ✕ 業界 の2軸で考えよう
縦軸に「職種・ポジション」、横軸に「業界」を置いたマトリクスである。
転職だけが対象ではないが、気の利いたネーミングが思いつかなかったので、「ジョブチェンジ難易度マップ」としてみた。
軸の1つ目は「職種・ポジション」
下は現在と変わらない仕事内容、職務上の立場・役割であることを示し、上に行くほど、その変化が大きくなる。
職種そのものが変わることもあれば、大きな領域は変わらなくても、その中での担当が変わることもあるだろう。また、プレイヤーからリーダーやマネジャーといった、仕事や人の管理を担う役職につくことも含まれる。
2つ目の軸は「業界」
これはあまり説明の必要はないだろう。左側は同業種、右へ行くほどに異なる業種・業界になる。同じ業界でも機能会社の場合は異なる機能の会社へ行くとかなり異なる世界になるかもしれない。
同時に変化が起こる領域の難易度は高い
このマトリクスで、現在の仕事からどちらの要素がどの程度変化するかを見ることによって、次の仕事への適応のしやすさに当たりがつく。
4つの象限が示す意味はお分かり頂けると思うが、難易度という点では次のような順である。
- 左下のあまり変化がない象限(図の水色)の難易度は低く、
- 次に左上と右下(図の黄色)のいずれかが変化するパターンで難易度が上がり、
- 右上(図のピンク)へのジャンプは両面が変化する状態に置かれるためかなりキツい状況となる。
実際のケースは…
では、実際にキャリアを考える時にどのようにマトリクスをつかっていけばよいか考えてみよう。
いまの自分の仕事と今後の方向性を挙げた時に、2軸のそれぞれの変化度はどれくらいあるか、考えてみてほしい。
例えば法務・経理や人事などの管理部門の職種の人が、別の業界の同一職種へと変わる場合は、マトリクスの横移動になる。(図の下の円)業界の商習慣や商品・サービスについての理解は必要だが、最終的にやるべき仕事は変わらないので適応しやすいだろう。
職種・ポジションが変わる場合はどうか。業界や組織が変わらず、自分の仕事の担当領域や役職が変わる場合である。なれた組織ではあるが新たな役割に適応するには、時間を要したり自分の足りない部分が浮き彫りになることもあるだろう。環境変化より自分自身の変化が求められる度合いが大きいということかもしれない。
問題は右上へのジャンプである。
職種やポジションも変わり、業界や組織まで変わってしまう。こうなると一気に適応難易度は上がる。次の経営を担ってほしい中核人材に対して、現社長がチャレンジングなアサインをするケースなどはここだ。ある部門の部長級をいきなり未経験の業界の事業部長に据えるケースなどがある。
もう少しソフトなパターンでは、若手で別の領域にチャレンジしたい場合、その伸びしろを見込んで未経験業界・職種での採用をしている、いわゆるポテンシャル採用のようなケースだ。この場合は30歳未満などと若手限定のことが多い。
最後のパターンは独立・起業だ。
特に異業種や未経験分野での起業はかなりのリスクを伴う。会社員という立場での保証がない起業家にはなおさら厳しい環境といえる。
ここを本人が選択するには、相当な問題意識や強い意思・覚悟が必要だろう。
どちらかの軸に沿ってのキャリアチェンジが無難だが…
以上のパターンから、やはりどちらかの軸を活かしながら、ピボットするかのようなキャリアの描き方が、よりリスクをコントロールしやすく望ましいと言える。
右上ゾーン(2軸とも変化)を目指す多くの人には、まず一方の軸へ進み、その後もう一方をシフトするというたどり方をお勧めする。(図の点線)
例えば、メーカーの営業からITコンサルタントを目指す場合。
まずは同じ営業職として、ITコンサル職がある会社の、IT製品営業の仕事へ転職する。これは横方向の変化。
ここで、IT業界の慣習や顧客特性などを学びながら、営業活動の中で企画やコンサルテーションの経験・スキルセットを磨く。その次に社内異動でコンサルタントへの職種転換を目指す。これが縦方向の変化。といった形だ。
実際に僕の知人ではこういうキャリアの人がいる。
しかし、そう理屈どおりにいかないのも世の常であるし、なにより僕自身は起業のタイミングではいきなり右上を目指している(苦笑)
なぜそれを目指すのか、いきなり右上を目指す場合に、どのように成功確率を上げるのか、についてはまたの機会に書いてみたい。
まずは、この2つの観点のマトリクスで考えてみていただき、ぜひ自分なりの観点や基準を持つための参考になれば嬉しく思う。
良いキャリアを!